【養育費の決め方】公正証書で、「大学卒業まで支払う」は適切か?
協議離婚するときに、養育費の支払いについて、公正証書を作ることが増えています。今回は、養育費の支払いが終わる時期の定め方について、実際にあった事案を例にしてご説明しましょう・・・「大学卒業まで支払う」という約束です。
1 まずは、実際にあった具体例を、分かりやすくご紹介しましょう。
【具体例】
あるご夫婦は、離婚の話し合いのなかで、ご主人が奥さんに対して、「お子さんの養育費を、大学卒業まで毎月10万円ずつ支払う」という約束をし、公正証書を作ることにしました。奥さんは、たとえお子さんが浪人しても、これで、養育費の支払いは安心だと思っています。
この公正証書に問題はないのでしょうか?
離婚するときに、養育費などの金銭の支払いについて、公正証書を作成するのは、金銭の支払いが滞ったときには、公正証書を根拠として強制執行して、金銭の支払いを受けようとするからですね。言葉を変えると、いざという時には、裁判所の力を利用して強制的に金銭を支払わせようとする点にあります。
ところで、強制執行の根拠となる公正証書の記載については、金銭の支払いについて、支払額や期限について明確な記載が要求されています。例えば、「金100万円を、令和3年10月末日までに支払う」というようにです。
今回の具体例を見ると、「毎月10万円ずつ支払う」となっていますから、月々の支払い額は明確ですね。しかし、「大学卒業まで」という養育費の支払期限は、明確とは言えないようです。浪人や留年もありえますから、「大学卒業」というのが、明確にある時点を意味するとは言えませんから。
公正証書との関係で言うと、養育費の支払いが終わる時期が不明確で、何時まで強制執行ができるかが不明確になる、ということです。
公証人の連合会の資料も、「大学卒業まで」との定め方では、「養育費の支払いについて疑義が出る危険があるので」適切ではない、と指摘しています。
従って、「大学卒業まで」という約束は、公正証書の作成を考えたときには、適切ではない、と言えそうです。
2 それでは、このご夫婦のお考えを生かすためには、どのようにすれば良いのでしょうか?
養育費の支払いが終わる明確な時期を定めるためには、浪人や留年がないときに、通常であれば大学を卒業する「22歳に達した後の最初の3月まで支払う」などの定め方をします。
その上で、浪人や留年に備えて、「22歳に達した後の最初の4月に在学中のときは、卒業まで養育費を支払う」などの約束を付加して、養育費の支払期間を延長します。
ここで注意していただきたいのは、上記の約束だと、「22歳に達した後の最初の3月」までは、強制執行の対象となりますが、それ以後の延長された期間は、強制執行の対象とはなりません。延長された期間は、養育費の支払いが終わる時期が不明確になっているからです。
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令和4年11月17日 I
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